【2025.02.21開催 第44回ウェビナー】質疑とその回答 集
第44回K&iウェブアカデミー・ウェビナー
『その設計、大丈夫? ~地盤に学ぶ失敗の事例、作図ミス軽減の提案~』(2025.2.21開催)
に寄せられた質疑とその回答 集
※本質疑回答の中で個人や法人、団体が特定出来る内容のものは掲載を見送りましたので、予めご了承ください。
■質問1
3次元斜面解析は、3次元弾塑性FEM解析を使用されているのでしょうか
《回答》
ご紹介したものは、3次元極限平衡法(LEM解析)です。
使用したソフトは、カナダのRocscience社(https://www.rocscience.com/)のSlide3です。日本のソフトでは、富士通のCostana-3Dのオプション機能でできると思いますが、使ったことが無いので詳しいことはわかりません。
盛土の3次元簡易解析は、エクセルでもできますし、頑張れば関数電卓さえあれば手計算でもできます。これも原理的には極限平衡法です。
ただし、実現象でチューニングされていますので統計解析的です。解析精度は、実のところ3次元極限平衡法の順解析と、3次元簡易解析(弁当箱モデル)はあまり違いません。
それは、おそらくトリガーの過剰間隙水圧(比)の影響力が大きいにもかかわらず一種のブラックボックスだからです。3次元極限平衡法に用いた過剰間隙水圧比は、統計解析である簡易3次元解析から求められた過剰間隙水圧「高」を、過剰間隙水圧「比」に換算したものを用いています。最大影響要因が同じルーツなので、同程度の結果精度になるわけです。
『盛土等防災マニュアルの解説』では、「3次元変形解析」と書かれているので、FEM解析を連想しがちですが、一般に盛土問題では「破壊」が検討対象で「変形」は対象外です。変形量が計算できる物性値(地盤の変形係数など)の調査が行われないのが一般的なので、変形解析では推定値で変形量を算出することになってしまいます。
変形量が問題になる道路構造物などの場合には、FEM解析も有効です(特に行政の「理由造り」においては)。
しかし、そうであっても破壊評価に移る際には、「せん断強度低減法(SSR)」を用いて安全率に換算する操作が行われますから、結局のところ破壊問題は「安全率」でしか評価されません。したがって、破壊問題を扱う場合には3次元極限平衡法の方が直接的で分かりやすいです。
■質問2
最初のH鋼を立てて崩壊を防いだ理由として、すべりを分割したというのは理解できるのですが、H鋼を立てるだけ(ほぼ非接触)で分割できる理由が良くわかりませんでした。
(H鋼を斜面に寝かしたり、斜面端部に自立するくらいに押し込んで立てたというならまだわかるのですが...)一体地山に対して、どういったことが起きていたのでしょうか?
《回答》
バックホーのバケットで押し込める範囲では押し込みます。非接触ではありません。「根入れ」というほどのことはできませんが、地山部に若干入っています(自立できるほど入っていないので支えをつけています)。今はメカニズムが分かったので、要点は「動かない固定点を斜面内に新たに創ること」です。それが実現できるなら、方法はその場所にあった形でよいと思います。H鋼を斜面に寝かせて、重さで動かなくなればいいのですが、H鋼を載せたまま土塊ごと動いたら意味がなくなります。
■質問3
抑止杭の失敗(3回の杭長・杭径アップ)事例を事前に防ぐ検討方法について、ご意見があればご教授をお願いします。
同じ破砕帯地質が深部まで連続しているので、①簡便的にはすべり計算により深部まで安全率が不足することを示す、②FEM解析により中途半端な杭長では応力配分が杭下面へ集中して塑性域(不安定領域)が下面に及ぶとか、個人的には考えております。
《回答》
まず地すべり現象を地形発達史としてとらえ、放置すればこの地すべりは最終的にどうなっていくかを想像することが重要だと思います。ご紹介した破砕帯地すべりは、話の中では触れませんでしたが不動土塊が末端閉塞構造を造っていました。平面的な末端閉塞構造が無ければ、すでに海に消えていた地すべり土塊でした。
当時、不動層まで掘りぬいたボーリング孔で動態観測が行われており、実は深いところにも変動らしき観測データがありました。
調査したコンサルは、そのデータは粘土の膨張であってすべり面変動ではないと評価していました。おそらく、浅いスベリしかないという結論に誘導したいバイアスがその解釈をさせたのだと思います。実際にはすべり面変動でした。
まずその説明不足の点を説明したうえで、ご質問にお答えします。①も②もその通りだと思います。日本の公共事業における安定解析の問題点は、「最小安全率」または「最大必要抑止力」などの「唯一のスベリ形状」に決め打ちしすぎることです。ほかの箇所だって十分不安定なのではないかとさえ思えば、計算によって説明することも十分可能になります。
■質問4
小崩壊を止めた工事事例について質問させていただきます。
H鋼を4mピッチで置くだけであれば、大型土のう等を利用すれば施工日数を短くできたのでは?と考えました。
如何なものでしょうか?ご教授お願いいたします。
《回答》
大型土嚢利用のご提案ですが、それでよいと思います。それでよいと思えるのは、私が指導を受けた技術者が経験で知っていた崩壊防止法を、理屈で解釈できたから言えることです。大型土嚢でもおそらく同様の効果が発揮できますので、実現可能です。
経験知を理屈に昇格させることができれば、より容易な方法が思いつきます。応用も利きます。経験知のままだと、まったく同じ組み合わせを持ってこないといけません。私がお伝えしたかったのは、「経験知を理屈に」ということでしたから、とてもよく理解してくださったと思います。
■質問5
「すべり土塊が溶ける」で表層土塊が溶けて消えたのは「表層浸食」ではないですか?
《回答》
溶けたのではなく、表層侵食ではないかとのご指摘ですが、そうかもしれません。実際誰も豪雨時に現象を見ていないのでわかりません。また「溶けた」という言葉を比喩的に使ったという側面もあります。
もし記録的豪雨時の表層侵食に興味やこだわりをお持ちであれば、深く突き詰めていくと新しい発見・発明があるかもしれません。そういう「技術者のこだわり」が重要だということも、今回お伝えしたかったことです。
■質問6
本日はありがとうございました。前半の道路工事の際の法面崩壊による対処法は、大変勉強になりました。1年前に同じようなケースがあり、高価な仮設工法に変更し、予定の半分も工事が出来なかったのを経験しました。もっと早くこの内容を受講したかったです。
《回答》
設計においては、完成形が「お金になる」部分なので力を入れますが、工事現場で最も重要なのは仮設時ですね。そこには、自然の挙動の秘密がたくさん詰まっています。小さなヒミツを解き明かすことで、様々な応用が利きます。そういうことを楽しみとしてやると、いろいろな発見・発明ができるかもしれません。
■質問7
①の掘削断面の小崩壊で用いたH鋼の端材の件ですが、すべり面の分散化が功をなしたとの事であれば木製の角材でも良かったという理解でもよろしいでしょうか?
《回答》
経験知がリクツに昇格したので、要点は法面の一部に不動点を造るということだとわかっています。したがって、木製の角材でも場合によっては可能だったと思いますが、軽量のものよりは重量の大きなものの方が容易だとは思います。
大型土嚢でもよかったのではないかという質問もありました。メカニズムが分かったあとなら、それでも良いことが分かります。木製角材も然りです。
お伝えしたかったのは、「経験知を理屈に」ということでした。理屈になれば、ご質問のように様々なバリエーションで対応することが可能になります。経験知のままだと、まったく同じ方法でやらないといけないという制約に束縛されます。ご質問の内容から、お話した内容をよく理解してくださったことがわかります。
■質問8
⑤すべり土塊が溶ける(スライド32-34)において、2点質問いたします。
質問1.豪雨後、「土塊が溶けて消えた」とありますが、崩壊前のスライドでは雨による流出防止用のネット(緑のもの)をしているので、これはどこに消えたのでしょうか。
質問2.スライド34にて、土塊が溶けない対策=地下水対策とあり、溶けた原因がパイプ流であれば地下水対策が有効と思いますが、豪雨の雨で表面が洗い流されたのであれば、表面を遮水するようなシートの方が効果的と思えます。こうした「表層が溶ける」対策の場合、地下水対策だけで十分なものでしょうか。
《回答》
質問1については、わかりません。被災直後に見に行ったわけではない(要請もされなかった。たぶん私が設計したことを今の所有者は知らなかったと思います。無償設計で報告書もないですし)ので、ゴルフコース運営の支障になる土やその他のものはすぐに撤去されたと思います。おそらく、土とともに流されたのだと思います。
質問2についてですが、溶けた原因がパイプ流か地表侵食かわかりません。多分両方だと思います。ですから、浸食防止シートがあればそれなりに機能したと思います。
ただ、時間雨量80mm超が2時間連続すると、それでも結局は同じだったかもしれません。地下水対策だけで十分だったかということに対しては、この雨の量だとたぶん十分ではなったでしょう。踏ん張れる雨量の閾値がやや大きくなった程度のことだと思います。
ただ、鉄道の防災対策などが参考になりますが、彼らはそもそも完全に崩壊を止めることを目的にしていません。崩壊の危険雨量値(すなわち閾値)を上にシフトすることを目的に対策をしています。
常時保線の仕事をされているので、状態は常に変化し続けることを理解されているのだと思います。自然相手のことなので、そういう考え方は重要だと思います。
平常時から各所が崩れて困っていることに対し、コースの保全員以外の人手とすぐに手に入る安価な材料以外は選択不能な制約条件で行った対策でした。それこそ「想定外の雨」に対してまで機能するとはだれも思っていなかった面があります。「改善した閾値を超えた」と関係した誰もが解釈したのでしょう。
■質問9
1.極論になりますが、そこそこに通常施工されている盛土や表層土の強度およびそのバラツキなどは崩壊の主要因ではなく、「谷埋め盛土の形状や表土層厚」と「水圧」が主要因という考え方でよろしいのでしょうか?
2.斜面崩壊の抑止工のみの対策の場合、安全率は2.0が必要とのことですが、実状は1.2で設計されております。この場合は、現状の対策が不十分であると言うことでしょうか、それとも、ロックボルト等の検討時に関連する様々な安全率の効果を総合して判断すると、結果としてたまたま安全率が2.0以上を満たしていると言うことでしょうか?
3.剛体でない地すべりの場合、より経済的な設計を行うのであれば、地すべり形状等から側方抵抗効果が生じない安全率が1.2以下のブロックを特定してそのブロックのみの対策を行う方法もありでしょうか?
《回答》
質問1に関して、その理解でよいです。もちろん盛土の強度やバラツキが完全に無関係であることは無いのですが、影響力としては弱く、「主たる要因」は谷埋め盛土の形状と水圧(過剰間隙水圧)にあったということです。危険性評価や対策を考えるうえで、すべての要因を細かく検討するよりも、非常に影響力が強い要因のみに絞って考える方がよい、ということの事例です。
質問2についてですが、計画安全率2というのは、土塊の抵抗力がゼロとなった場合に必要な最低限の安全率です。ですから極端な事例を言っています。
とはいえ、土塊の抵抗力ゼロとなる場合は案外あるので、頭の中に入れておいた方がいいことだと思います(どうしても崩すなと言われたら、鉛筆を舐めて実際には2.0あるものを基準書通りの1.2の計算書に収めるのも技術者の力量だと思います)。
実際には、滑り面の抵抗力がゼロとならないことも多いし、平面的な形状(例えば末端閉塞形状や、直進で無いスベリ方向など)も抵抗力となります。それに、そういう抵抗力ゼロとなるような記録的豪雨や大地震の外力が来る確率は高くありません。
非常に重要なことですが、計画安全率の設定根拠についての技術的論文は存在しません。
わずかに存在するのは、戦後の電力需要がひっ迫している時に、水力発電を行うためのダムの湛水に伴う地すべりを早期に収束させるためにどの程度の安全率付加をしたらよいかという議論があったことです。
すなわち予算措置として地すべり対策費をどの程度積み増せば、早く水力発電を始めて工業界に電力を供給できるかという産業振興の要請から、当時の行政のインハウスエンジニアが苦し紛れに言ったのが「20%程度の安全率付加」だったようです。
短い経験期間を考えると、とても経験則と言えるレベルではありませんでした。対策工事費を決定づける重要な数値に対して、技術的根拠が無い理由がこれです。計画安全率がアンタッチャブルなのは、技術的根拠が無いため変更理由もないからです。
あらためて計画安全率1.2の意味を考えてみると、いろいろな不確定要因があっても、真の安全率が1.0を下回る=滑動する確率が5%以下となる程度のようです。
(これは私の私見です)
国道・県道・町道などで計画安全率が異なりますが、これは自然側の理由ではなく、許容する滑動確率の違いと考える方が妥当です(実際に数値として滑動確率が把握されているわけではないと思いますが)。ポイントは、真の安全率が1.0を下回らないと滑動は決して起きないということです。私自身は、斜面問題として安全率1.0以外の数値は意味がないと考えています。(たぶん3月の失敗談セミナーでそれを話すことになると思います)
質問3についてですが、「その方法もあり」です。
そもそも、最大層厚の2次元断面で逆解析した抑止杭を、横断的に全部同じ規格で配置するというのは、理屈ではなく「経験知」です。理屈としてわかれば、安全率1.0以下のブロックだけ(安全率に1.0以外の数値は無意味なので)対策するという選択肢もあります。
ただし、見落としている要因が存在する可能性も考えて、少し下駄をはかせる(安全率1.2以下など)という方法もあると思います。ただ、その差分の0.2の技術的な理由をできるだけ追い求めてください。
■質問10
鋼材を「置いただけ」ですべりが止まったとご講演いただきましたが、鋼材を置くことで、鋼材背面の土砂の強度が増加したようになり、W/Dが小さい複数のすべりに分散されたため、すべりが止まったとの認識ですが、問題ないでしょうか?
また、鋼材を打ち込まなかった理由はなにかあったのでしょうか?
(記憶があればで結構です)
《回答》
鋼材背面の土砂の強度が増したわけではありません。底面の滑りやすい弱い強度と、側面の普通の土の強度との合計が「総強度」です。W/Dが大きいと、側面の普通の強度の比率が小さく、底面の弱い強度の比率が大きくなるので、総抵抗強度が相対的に小さくなります。
一方、滑動力は土塊の体積に比例するので単位幅当たり変化がありません。どこかで、総抵抗強度<総滑動力になる閾値があります。W/D比が小さくなるとその閾値以下になるため滑動しなくなります。阪神・淡路大震災の統計的解析ではW/D=10が閾値でした。
鋼材を打ち込まなかった理由は、打ち込む道具が無かった、打ち込む費用もなかったからです。工事中の仮設には増額費用が認められることはほとんどないので、経験的にこういう工夫をしていたようです。実際にはバックホーのバケットで押し込んでいます。ほとんど地山に入っていませんので鋼材は自立できず支えは必須でしたが。
■質問11
抑止杭の位置は手前に設けると杭長が短くなりますが,順次内側になっていたのですが抑止力が山側の方が小さくなるということだったのでしょうか?それとも施工の関係で道路側に計画されたのでしょうか?考え方によっては,最初の滑り抑止力の滑り線の上の土塊は受持つとし,最終的にはmその下の分だけを持つようにすることはできないのでしょうか?
《回答》
これは④に対するご質問ですね?
杭の位置はイメージです。順次右側に寄っていったわけではありません。プレゼン資料作図の都合上です。むしろ、当初は小さいスベリと考え、道路を守るのが主目的だったので道路に近い側だったのが、徐々に大きな土塊が対象になり、斜面下の道路から離れる方に移動していったような記憶です。むしろこの絵の反対方向にシフトした感じです。
正確な位置関係で描いていませんでした。
したがって、その順列だと、ご質問のように小さいスベリを浅い杭が受け持っているような絵になります。ただ、そういう図面上の効果の通りになるかどうかはわかりません。杭径が順次大きくなっていますので、最後の大口径の杭は、地表に近づくほど肉厚を薄くしたといえども、当初の杭よりよほど強力なので、浅いスベリにも十分効果があるはずです。たぶん、2回目までの杭は何の効果もない「地下に眠る鉄」になったにすぎないと思います。
当時の記憶では、杭打設位置の決定は、施工可能箇所の問題が最も大きかったと思います。大口径杭の全旋回掘削機はドでかいので、施工場所がクリティカルな要因だったわけです。
■質問12
3次元の地すべり解析で、底面、側面で強度を変えて設定する話がありましたが、3次元解析であっても2次元解析同様に現況安全率からの逆算で等価強度(ブッコミ強度)を用いることは問題ないと考えていますが、何か問題となることがありましたらご教示ください。
《回答》
実は3次元解析のブッコミ強度は、理屈の上というよりも実務的に問題があります。
それは、3次元解析には2次元解析のような計画安全率というものが存在しないからです。
経験則は経験があって初めて根拠が得られますが、3次元解析にはそれだけの「経験」がありません。暫定的に2次元逆解析の計画安全率を用いる場合もありますが、理屈の上での根拠が全くありません。そこが3次元解析の泣き所です。
とはいえ、2次元解析の計画安全率にも実は技術的な根拠はほとんどありません。工事費を決める最大要因なのにもかかわらず、技術的根拠がない「神のお告げ」のような数値がなぜ使われているのかを、執念深く調べましたが、技術的論文は皆無でした。
わずかに存在するのは、戦後の電力需要がひっ迫している時に、水力発電を行うためのダムの湛水に伴う地すべりを早期に収束させるためにどの程度の安全率付加をしたらよいかという議論があったことです。
すなわち予算措置として地すべり対策費をどの程度積み増せば、早く水力発電を始めて工業界に電力を供給できるかという産業振興の要請から、当時の行政のインハウスエンジニアが苦し紛れに言ったのが「20%程度の安全率付加」だったようです。
短い経験期間を考えると、とても経験則と言えるレベルではありませんでした。対策工事費を決定づける重要な数値に対して、技術的根拠が無い理由がこれです。計画安全率がアンタッチャブルなのは、技術的根拠が無いため変更理由もないからです。
真の安全率は3次元順算法でしか得られる技術的な理屈はありません。3次元逆算法で使う場合には、理論武装が必要です。逆算法の長所は安全率1.0でモデルをリセットできるところです。その条件を下回らなければ滑動はしないわけだから、安全率1.0を評価基準とすれば3次元逆算法を利用する方法が生まれます。
私は、安全率の値よりも崩壊確率(変動確率・滑動確率と言ってもいい)を用いる方法論を使っています。「安全率1.0を下回らなければ良い」というだけの基準です。土質のバラツキ、地下水圧のバラツキを想定し(わからなければ変動係数20%くらいで)、確率計算をして、安全率1.0を下回る確率を計算します。
崩壊確率5%くらいが2次元の計画安全率1.2相当(いくつかの事例で試算した私見です)です。崩壊確率を評価軸にした場合には、2次元法も3次元法も同じ土俵に乗ります。順算法も逆算法も同じ土俵に乗ります。安全率1.0の閾値は、人間の作る根拠の薄い数値の弱点を補ってくれます。
この考え方は、日本発祥(松尾稔先生の『信頼性設計』にあります。1980年ごろの著書です)なのですが、日本の公共事業で採用されることはありませんでした。ところが海外の安定解析ソフトでは、2次元でも3次元でも確率解析はいまや標準装備です。安定解析法も、海外では性能設計にすでに移行して久しいですが、日本ではいまだに仕様設計のままです。
性能設計には計画安全率の概念はありません。ユーロコード7(性能設計レベル3)には部分安全率の概念がありしきい値を安全率1.0としています。性能設計レベル2、レベル1は閾値を安全率1.0においた確率解析(レベル1は崩壊確率、レベル2は信頼性指標を用いる方法)です。国土防災技術の榎田充哉氏が、地すべり学会などで発表されている論文等があると思います。
■質問13
軟体の安定計算事例などはあるのでしょうか?
⑤の件ですが、泥岩等の細粒分の流出を防止しつつ、変形を防止する良い事例等はあるのでしょうか?
《回答》
軟体の安定計算事例というものはありません。安定計算は剛体でやっても軟体でやっても極限平衡法では同じものになります。FEMなどの変形解析法であれば、剛体と軟体の違いは出ると思います。対策方法としては、軟体の場合、(塑性)変形するので、滑動力を減じる措置を講じないと、待ち受け対策側に過度な負担を強いることになります。3次元的には、杭配置の外側に土塊が回り込んで動きます。
⑤の件というのは、「すべり土塊が溶ける」のことですね。「泥岩等の細粒分の流出を防止しつつ、変形を防止する良い事例等はあるか」とのお尋ねですが、残念ながらありません。
公共事業の斜面対策は「地すべり土塊の変動を完全に防止する」という観点で行われますが、これは物理法則の大原則(エントロピー増大の法則)に反するので実際には出来っこありません。
供用期間中は管理しながら変動量等を許容範囲内に収めメンテナンスで対応するか、対策工が想定している外力よりも大きな外力が作用した場合でも被害を小さくする工夫をするか、の選択になると思います。
この事例では、ゴルフ場内の話だったので、記録的豪雨時にプレーする人などいませんから、普段の外力では崩れにくくしておいて、大きな外力が来た時には処理しやすいところに崩れて、処理を用意にし、営業再開を早くする、という考えで行いました。